萩原慎一郎 歌集「滑走路」

5月31日、NHKTVの9時のニュースを何気なく見ていたら、アナウンサーが31文字を読み始めました。
「ぼくも非正規きみも非正規秋がきて牛丼屋にて牛丼食べる」
「シュレッダーのごみ捨てにゆく シュレッダーの ごみは誰かが捨てねばならず」
胸を打つ短歌です。就職氷河期の方が詠んだのか? 切実な日々が伝わってきます。思わず、メモ帳に歌を殴り書きしながら、若くして自死した歌人が自分を世の中に捨てられた「にんげん」として客観的に見ているのに才能を感じました。
その歌は視聴者であるワタシの心のなかにある気持ちを代弁していました。
萩原氏は高校でいじめを受けて、その後遺症に苦しんだそうです。
「大勢の前に出ることができなくなり、精神科に通う日々が続きます。通信制の大学を卒業した後、27歳の時に非正規の仕事に就きました」
アナウンサーのこんな言葉が続きました。
「今日も雑務で明日も雑務だろうけど 朝になったら出かけてゆくよ」
「非正規の友よ、負けるな僕はただ 書類の整理ばかりしている」
「夜明けとはぼくにとっては残酷だ 朝になったら下っ端だから」
「コピー用紙補充しながらこのままで 終わるわけにはいかぬ人生」
「夜明けとはぼくにとっては残酷だ 朝になったら下っ端だから」
「コピー用紙補充しながらこのままで 終わるわけにはいかぬ人生」
非正規雇用への不安が溢れます。
自分は正規雇用だから関係ないとは言えないのでしょう。このような社会の仕組みを作ったのは私たちなのだから。
萩原氏は恋愛の歌も詠んでいます。
「3時間前に座りし公園のベンチを濡らす雨が降りたり」
氏はベンチに3時間腰を下ろしていたのか。雨は氏を濡らし、気持ちは救われたのか?
雑用はだれがやるのだ。シュレッダーのゴミは誰がすてるのだ? コピー取りはだれが? それを言っちゃあおしまいだ。萩原氏はそれを分かっていて歌を詠んでいる。
氏この歌集が刊行される前、平成29年(2017年)6月8日に自死したのだそうです。
氏の短歌のなかでも、震えがくるほど実感したのは:
「満員の電車のなかで群集の一部となっている俺がいる」
「群集の一部となっていることを拒否するように本を読みたり」
「けして夢あきらめぬこと 少年に告げる選手がわれには告げず」
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